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床矯正装置の特徴(2)
床矯正装置の特徴(2)
コラム20回目は床矯正装置について、唇側矯正用のブラケットとの比較から、その特徴について解説します。
例として上顎前歯を唇側に移動させるケースを取り上げます。
床矯正装置の移動様式
床矯正装置は着脱可能な装置で、一方向にしか力を加えることができません。
左図のグレーの丸が力の作用点ですが、歯の回転中心は歯の根の方にあるので、回転中心を軸にして回転力が加わり(青の矢印)歯が傾斜することになります(傾斜移動)。
傾斜移動そのものは良くも悪くもありません。あくまで治療目標に沿った動きであるならば何の問題もありませんが、床矯正装置というのはこの傾斜移動しか達成できないということを把握することが大切です。
唇側矯正の移動様式(1)
次に唇側矯正の移動様式についてです。
唇側矯正のブラケットは歯に接着されています(左図青い部分)。そこに左図のグレーで示す四角い針金を入れます。
この時、ブラケットの角度と針金の角度が異なれば針金は元に戻ろうとするため歯に回転力が加わります(緑矢印=トルク)。
唇側矯正装置や舌側矯正装置などのブラケットを使用する装置ではこのように歯に回転力を加えることができますが、床矯正装置では回転力を作用させることができません。
唇側矯正の移動様式(2)
最後に唇側矯正で上顎前歯を唇側に平行移動させる際の力学です。
ブラケットが接着されているのは歯冠側ですから唇側に動かそうとすれば、床矯正装置のとき(1枚目の図)と同じく傾斜移動の力が働きます(青い矢印)。
仮に唇側矯正装置を使用していても四角の針金でなく丸い針金を使っていれば床矯正装置同様に傾斜移動になります。
ところが四角の針金を使うと傾斜移動に関わる回転力を相殺するためのトルク(赤い矢印)をブラケットを通して歯に作用させることができます。
このため唇側矯正装置では歯を平行移動させることが可能なのです。
床矯正装置についてのまとめ
床矯正装置というのは矯正臨床にとってはとても便利な装置です。しかし、上記のトルクに関してもそうですし、もっと簡単な例では左右の中切歯の高さが1mmずれていたとしても、床矯正装置は治すことができません。いえ、不可能とまでは言えませんが、僅か1mmのために相当な時間を費やすことになります。しかも中切歯と側切歯も2mmずれて・・・などとなるともうお手上げです。
唇側矯正や舌側矯正といった、歯に装置を接着すれば実に簡単な作業も装置の選択を誤ると大変な時間がかかるのです。
最近はインターネットが普及したため患者様は様々な情報を入手することができます。そのためなのか「そちらでは床矯正をやっていますか?」というお問い合わせを頂くことがままあります。
率直に言うと「やっているといえばやっているけれど、おそらくお問い合わせを頂いた方の考えているような床矯正ではないだろうな」と感じることが多いです。
当院は床矯正というものを矯正治療全体の1分野として位置付けていて、必要に応じて利用しています。けれど、床矯正装置だけで満足のいく治療結果を得られることは極めて稀なことです。