歯並びが悪いと「肩こり」や「耳鳴り」の原因になる？

矯正診療に携わっていると稀に「肩こりが酷いのですが歯並びが原因では？」、「耳鳴りがするが、かかりつけの歯科医院で歯並びが原因ではないかと言われたから診察してほしい」といった相談を受けることがあります。
今回は不正咬合は肩こり、耳鳴りなどの口腔領域と離れた部位の疾患の原因となりうるか？について考察してみたいと思います。

まず最初に私の知る限り、歯並びと肩こりや耳鳴りといった症状との関連性について科学的根拠をもって説明できる歯科医師はいないと思いますし、権威ある学術誌に掲載された論文も知りません。
そこで客観的事実を挙げることで関連性の有無を類推してみたいと思います。

整形外科、耳鼻科から矯正歯科への診察依頼はない

「肩こり」を自覚して病院を受診する際に真っ先に思い浮かぶのは整形外科である人が多いのではないでしょうか。肩がこったからとりあえず歯科を受診しようと考える人はあまりいないでしょう。整形外科の先生は専門領域ですから肩こりに対する知識も経験も歯科医師より豊富なはずです。また、同様に「耳鳴り」であれば耳鼻科を受診すると思います。
私は歯科医師になって30年近く経過しましたが、整形外科の先生から「この肩こりは歯並びが原因と疑われるので矯正治療をお願いします」、耳鼻科の先生から「この耳鳴りは歯並びが関連していると考えられるので矯正治療をお願いします」といった依頼を受けたことがありませんし、周囲でもそのような依頼を受けたという歯科医師を聞いたことがありません。

「肩こり　歯並び」「耳鳴り　歯並び」で検索すると、上位に表示されるのは歯科医院のホームページばかり

これは皆さんも検索してみていただきたいのですが、「肩こり　歯並び」でGoogle検索すると上位20位は全て歯科医院のホームページ、もしくは歯科医師監修のサイトでした。「耳鳴り　歯並び」も同様の結果です。整形外科、耳鼻科のホームページ、医師監修のサイトはいずれの場合も上位20件に1件も含まれていないのです。さらに探せば出てくるのかもしれませんが、この結果は肩こりや耳鳴りといった症状と歯並びを関連づけている、あるいは関連付けたいと考えているのは主に歯科医師で、医師は積極的な関連性を見出していないという一つの証左かなと考えています。

一方で、肩こりや耳鳴りと歯並びとの関連性を主張する歯科医師は概ね「咬み合わせが悪いことにより顎や口周囲の筋肉に過度な負担がかかり、血行が悪くなり、結果として肩こりや耳鳴りといった症状が生じます」というような主張のようです。言われればなるほど、と思わなくもないのですが、それなら腰痛、膝の関節痛だって歯並びが原因となって発症してもおかしくありませんし、せめて歯並びが悪い母集団と歯並びが良い母集団との間での肩こりや耳鳴りの発症率に有意差があるという参考文献ぐらいは引用しておいてほしいものです。

私の立場は肩こりや耳鳴りと歯並びの関連性を証明する明確な科学的根拠はないが、かといって完全に否定する根拠もない。よって、肩こりの治療は整形外科、耳鳴りの治療は耳鼻科を受診してもらうことにしています。少なくとも歯科医師が積極的に介入する症状ではないと考えています。